インターネットを利用する際、基本的には実名を公開する必要がなく「匿名」でサービスを利用できます。そのため、さまざまなところで匿名性を利用し、犯罪を行うケースがよく見られます。
インターネットにおける匿名性は本当に信じて良いものなのでしょうか?本記事では、インターネットにおける匿名性のメリットやデメリット、インターネットでの発言が原因で起きた過去の事件を踏まえた上で、ネット上での発言は本当に匿名性が保証されているのかを考察していきます。
インターネットにおける匿名性のメリット・デメリット
インターネットにおける「匿名」のメリットとデメリットについて考えてみましょう。簡単にまとめると、下記のとおりに考えられます。
メリット
- まわりを気にせず発言できる
- 自分を特定されにくい
- 問題が起こったらアカウントや情報を変えてまた再開できる
- インターネットユーザーは匿名を好むので積極的な発信を求める場合は匿名が好ましいケースもある
デメリット
- 匿名なのでなにをしてもいいと勘違いをし、誰かを知らぬ間に傷つけている可能性がある
- 言葉に責任がない
- 本気で探されると特定されるケースも多いため完全な匿名とは言えない
「匿名」と聞いて一番に思い浮かぶメリットは「身バレしない」という事。ネットで出会う人は、普段の自分がどんな立場や性格で、どんな仕事をしているかはわかりません。そのため、周りに何を言われるかを気にせず発言する事ができます。その発言に対して批判が集まっても、アカウントを消してしまえば誰が発言したかは霧の中。本来の自分として責任を追求される事は、相手が特定に動かない限りは殆どないと言って良いでしょう。
ネット上だけでなら言葉に気を付ける事なく、本音を言えると考えている人もいるかもしれません。とはいえ、本来のインターネットの「匿名性」のメリットといえば、お互いの本名や職業、立場や年齢がわからないという事で互いに相手を対等の立場とみなし、尊敬・尊重し合える点と言えるでしょう。
逆に、匿名性がもたらすデメリットは、「誰が犯人だかわかりにくい」事を裏手に取った詐欺や誹謗中傷などが起こりやすい事です。インターネット上で個人を特定できる情報が一切ない場合、特殊な手段を使わなければ詐欺の犯人や誹謗中傷の発言元を特定する事ができません。
具体的に言えば、あるSNSアカウントを利用して特定の人への誹謗中傷発言を繰り返し名誉毀損を犯した人がいたとしても、その発言元がわからないため簡単に罰する事ができないのです。そして、発信元を特定される危険性が低いと分かっているため、犯人は普段よりももっと厳しい言葉や過激な発言を相手に対して投げかけやすくなります。
インターネット上の犯罪事例とは?
過去にインターネットを通して起こったネットオークション詐欺やフィッシング詐欺事件の事例を見てみましょう。
事例1
無職の男(36)ら2人は、16年9月から同年10月にかけて、インターネット・オークションにおいて家電製品を売ると偽り、164人から約1,500万円をだまし取った。17年1月、詐欺罪で逮捕した(千葉)。
事例2
無職の男(34)は、電子掲示板を通じて共犯者を募り、17年6月から18年5月にかけて、フィッシング詐欺の手法を用いて、実在するインターネット・オークション運営会社を装って不特定多数の者に電子メールを送り、同社のウェブサイトに見せ掛けて作成した偽のウェブサイトを閲覧するよう誘導し、これを本物のウェブサイトであると誤信した者に識別符号(ID、パスワード等)を入力させてこれを不正に取得した上、無職の女(41)らにこの識別符号を使って不正アクセスさせ、他人になりすまして商品を架空に出品させ、落札した者から代金をだまし取った。18年5月、無職の男ら8人を詐欺罪及び不正アクセス行為の禁止等に関する法律(以下「不正アクセス禁止法」という。)違反(不正アクセス行為)で逮捕した。共犯者である女らは、この詐欺をインターネット上で行うことから、容易に逮捕されることはないだろうと考え、電子掲示板の募集に気軽に申し込んできたものである(京都、静岡、熊本)。
引用元:平成18年版 警察白書
このように、インターネットの匿名性を悪用した事件が多数起きており、様々な立場の人が困っている現実があります。上記のような事例はいくつかあり、他にもインターネット掲示板やSNSでの誹謗中傷問題も多く存在しています。実名が出ない、個人特定されないという安心感から、過剰な個人攻撃に走るケースも多く発生しています。
「インターネット=匿名」ではない?サイバー犯罪の現状からの考察
下記のグラフは、警察庁から公開されている平成30年時点でのインターネット上の犯罪に関する資料(PDF)の中に記載されている「サイバー犯罪に関する相談」の件数を参考に、平成26年、平成28年、平成30年の数値を簡単に比較したものです。
平成30年においては、インターネット詐欺や悪徳商法はかなり減少し、合計の相談件数は過去5年間で最大だった平成26年の131,518件から平成30年は126,815件まで減少しています。その一方で同資料にはサイバー犯罪の検挙件数は増加傾向にあり、平成30年は9,040件で過去最多とも記載されています。インターネット上での犯罪の検挙率が上がっているという事はつまり、「インターネット上は匿名だから個人が特定されない」という意見が崩れている結果とも言えるのではないでしょうか。
また、こちらのグラフでも「名誉毀損・誹謗中傷」の相談はこの5年間を通して見れば全体的に増加傾向にあると言えます。年間で相談された件数だけ見ても1万件を越える被害があるという事は、現在でも「インターネットは匿名だから」と過信して気軽に誹謗中傷を行う人が多いという事ですね。
オープンプロキシサーバーの危険性
インターネットに接続する際、ウィルス対策や匿名性を保証するためにオープンプロキシサーバー(公開プロキシ、公開串、匿名プロクシなどとも言われます)を経由して接続を行う人もいるでしょう。
「Proxy」とは「代理」という意味で、企業などで使用されている非公開プロキシサーバーはアクセスログの保存やインターネットへの高速なアクセス、安全な通信を目的として利用されています。非公開プロキシサーバーは、所属する企業の人間など限られた者だけが接続できる仕組みのため「非公開」と呼ばれ、対して誰でも接続可能なプロキシサーバーの事をオープンプロキシサーバーと呼びます。
本来の使用目的とは違いますが、オープンプロキシサーバーを経由してウェブサイトにアクセスすると、接続先のウェブサーバーの管理者からは自分の情報の追跡が困難になります。そのため、不正投稿や掲示板の荒らし、誹謗中傷、スパムなどを目的とした悪意のあるユーザーが追跡の足を欺くために公開プロキシサーバーを使用する事もあります。
さて、オープンプロキシサーバーを利用すれば匿名性が守られるというのは本当でしょうか?オープンプロキシサーバーの中には無料で公開され、だれでも利用できるものがあります。先述したように、プロキシサーバーを経由してウェブサイトにアクセスした場合、接続先のウェブサーバーに自分のIPアドレスは残りません。
しかし、接続したプロキシサーバーには自分のIPアドレスのアクセス情報が残ります。つまり、完全には匿名性は保証されないという事です。それだけではなく、プロキシサーバーの設置者に悪意があった場合、そこに保存された自分の個人情報を悪用されるリスクもあります。匿名性を守るために個人情報を悪用されては本末転倒。設置者のわからないオープンプロキシサーバーを使用するのはやめましょう。
ネットの匿名性を廃止すれば犯罪はなくなるの?
これらの問題は、インターネットで表示される名前を全て実名にすれば解決するかというとそうはいきません。極論ですが、例えインターネット上で基本的に実名やIPアドレスなど何らかの改ざんできない情報が表示されるようになったとしても、それをまた匿名にするためのシステムを誰かが開発して、匿名性を維持しようとする可能性もあります。
また、「実名を出せば良いのか」という問題として身近な例で考えてみると、実際には現在の時点でもFacebookやTwittertで実名(芸名)の公式アカウントを持つ企業や著名人が不適切な発言や他人の悪口を投稿して炎上する事は度々あります。その様を見れば、全員が実名などの個人情報特定可能な情報を表示したとしても、それほど犯罪の抑止力にはならないという事も容易に想像できます。
現実的に考えれば、個人特定可能な情報を強制表示させるには、その情報を元に新たな犯罪を生むなど大きなデメリットがあるため、現状のようなある程度の匿名性は今後も維持されていくでしょう。
まとめ|インターネットは完全な匿名性ではない!法律違反者は特定も可能
結論を言えば、インターネットは「ある程度の匿名性は保証されているが、完全な匿名ではない」と言えるでしょう。
匿名だからといって、インターネットでいじめや荒らしをしたり、他人の悪口を書いたりしている方はよく自分の発言を注意してから投稿するようにしましょう。悪口を書いた相手が名誉毀損として警察や弁護士に相談し、IP開示などが認められれば個人の特定は一瞬にして可能です。インターネット上での発言は、実名だとしても問題ないような投稿を行うようにしましょう。
また、今は関係ないと思っている人もいつかインターネットが関わる事件の当事者になってしまう可能性は十分にあります。インターネットは匿名だから安全とは考えずに、いつも予防や対策を行うよう心がけてください。
それとともに、気を付けていたとしても起こり得る、インターネットで自分が炎上してしまうといった万が一の場合に備えて、住んでいる地域や学校、職場など個人特定が可能になるような情報は投稿しないよう、今一度PCやインターネットの使い方を改めて確認してみましょう。もしもSNSなどで投稿してしまった可能性がある場合には、検索などを使って自分で探し出し、削除しておくのが安全です。