インターネットが普及した現在では、ニュースになればほぼ高確率でネットニュースにも取り上げられます。基本的に読み終わった後には捨てられたり再利用されたりする新聞紙とは違い、インターネットのニュースサイトに掲載されたニュースは、高確率で永遠にインターネットから消える事はなく残り続けます。Googleで自分の名前を検索した時に、昔の逮捕歴が実名とともに検索結果に出てくると、どのような不都合があるのでしょうか?また、削除することは可能なのでしょうか?
逮捕歴と前科の違いは?
逮捕歴と前科は別です。「逮捕歴」があっても「前科」がない場合もあります。下記では、逮捕歴と前科の違いや、前科が付いてしまう刑罰の種類について説明します。
逮捕歴
「逮捕歴」とは、刑事事件の被疑者として警察に逮捕された履歴の事を言います。逮捕されたかどうかの暦になるので、例えば逮捕された後に冤罪による誤認逮捕だった場合や、逮捕された後に嫌疑不十分で不起訴になった場合にも警察には「逮捕歴」として残ります。
前科
「前科」とは、犯罪を犯し刑事裁判を受けて有罪になった経歴の事を言います。日本の刑罰では、「死刑、懲役、禁錮、罰金、拘留及び科料を主刑とし、没収を付加刑とする。(刑法 第九条)」とされています。つまり、裁判で以下の刑罰を言い渡された場合は、「前科」が付くという事です。
死刑
受刑者の生命を剥奪する刑です。現行の日本の刑法では最も重い刑罰となります。強盗強姦致死罪などの殺人罪や外患罪、放火罪など重大な18種類の犯罪について死刑を規定しています。
懲役刑
30日以上20年以下の有期・または無期で刑事施設に入ります。次に説明する禁錮刑とは違い、懲役刑では労働の義務を負います。日本の現行刑法では死刑に次いで重い刑とされています。有期の懲役刑の場合、最長20年とは記されていますが、再犯や合併罪で加重する場合は最長30年まで延ばす事ができ、逆に情状酌量により減軽する場合は30日未満になる事もあります。
禁錮刑
30日以上20年以下の有期・または無期で刑事施設に入ります。懲役刑や拘留とも似ていますが、労働の義務がないという点で懲役刑と違い、期間の長さという点で拘留とも区別されています。無期の禁錮刑は死刑・無期懲役刑と並んで日本では3番目に重い刑罰とされています。懲役刑と違って労働の義務はありませんが、禁錮刑になった人には申請すれば懲役刑の人のような労働が認められます。現在では労働を申請する人が多いため、最近では禁錮刑が言い渡される事自体が減少しています。
罰金刑
1万円以上の徴収。
G20で煙玉を発煙させた男 略式命令で罰金30万円
G20大阪サミットの会場近くに煙玉を置き、警備を妨害した元警察官の男に大阪簡裁は30日、罰金30万円の略式命令を出しました。
偽計業務妨害の罪で罰金30万円の略式命令を受けたのは、大阪府警の元巡査部長の男(47)です。男は6月に開催されたG20大阪サミットの会場近くに煙玉3つを置いて、内1つを発煙させて逃げ、警察官の警備を妨害しました。
このように、業務妨害罪などに適用されるケースなどがあります。期日までに検察庁の徴収担当に納付するか、検察庁指定の金融機関に納付します。検察庁の公式ページでは原則分割払いは不可とされています。
拘留
1日以上30日未満(最長は29日)の範囲で刑事施設にて身柄を拘束されます。懲役と違って刑事施設内で作業を強制される事はありませんが、拘留には執行猶予がないため必ず実刑になるという特徴があります。公然わいせつ罪や暴力罪、侮辱罪などに適用されますが、現在はほとんど拘留の判決が下る例はありません。同じ読み方をする「勾留」とは別なので注意しましょう。
科料
1,000円以上1万円未満の徴収。日本の現行刑法では一番軽い刑罰で、検察庁の前科調書には記載されますが市町村役場の犯罪人名簿には記載されないという特徴があります。暴行罪や侮辱罪、遺失物等横領罪などを犯した際に適用されます。もしも科料が完納できない場合は、1日以上30日以下の労働場留置になります。
逮捕されて留置所に勾留されている期間に不起訴になったり、裁判を受けた結果無罪が認められた場合は、「逮捕歴」はつきますが「前科」はつきません。
なんで逮捕歴は注目されてしまうの?
(※)テレビの映像はフィクションです。撮影用に作成したイメージとなります。
さて、「逮捕歴がある=前科がある」ではない、という事は分かりました。逮捕歴があるからといって、刑罰を受けた訳ではない人もいるということですね。さらに、逮捕だけなら誤認逮捕の可能性もあります。なのになぜ「逮捕歴」がインターネット上に残りやすいのでしょうか?
報道の仕方にもよるのですが、未だに世間一般的な多数派の心理として「逮捕=犯人」の図式が強く連想されがちです。人々の関心は犯罪が起きた直後の方が強く、関心の高い時期の「逮捕」は注目され、SNSなどでも拡散されます。対して実刑判決(刑罰確定)は裁判の後であり、事件の直後に決まる訳ではないので、かなり凶悪な犯罪でない限りは大多数の人々の関心を得るまではいかないでしょう。さらに、冤罪であった場合でも、人々の関心を考えて冤罪であった事実をニュースとして報道する機関は、逮捕を報道した機関よりも少ないのが辛い現状です。
結果的に、人々の関心を多く集めた「逮捕」の記事がインターネット上には長く残り、例えその後に冤罪が確定したとしてもまるで犯人であるかのように実名を出され誹謗中傷を受けてしまう人が出てくるのです。
逮捕歴を削除した方が良い理由
インターネットに実名を伴う逮捕歴が書かれてしまうと、広く拡散され消えなくなってしまいます。そして、その事実を本人が気にしなければ良いかというと、そうはいかない場合もあります。インターネット上での逮捕歴を削除した方が良い理由をまとめました。
会社での評価は就職に不利?
就職活動の際、履歴書には賞罰を記入する欄があると思います。逮捕歴があっても、前科がない場合は賞罰欄への自発的な記入の必要はありません。そのため、書面から逮捕歴を会社が知る可能性は低いと言っても良いでしょう。とはいえ、公務員や医療関係者などの職業は逮捕されてしまった時点で実名報道をされてしまう可能性も高いのが現状です。その場合、前歴や逮捕歴で資格が剥奪される事はないにしろ、職を追われてしまう可能性に関しては低いとも言えません。
交際や結婚にも不利になるの?
交際、とくに結婚を考えるパートナーがいる場合、結婚する前に探偵や興信所に相手の賞罰を調査してもらう人もいます。もしも交際相手に逮捕歴があった場合、交際を続ける事は難しいと考える人は少なくありません。例え将来のパートナーに逮捕歴があったとしても気にしないという人がいても、その家族や親戚に強く反対されてしまったが故に破局してしまう可能性もあるでしょう。
家族にも影響があるって本当?
インターネット上で職場や実名などの報道されてしまうと、SNSなどの情報からすぐに個人を特定されてしまう可能性も低くありません。個人を特定されてしまうという事は、その家族も特定する事が可能という事でもあります。そういった場合、逮捕された本人だけではなく実家の両親や兄弟まで晒しにあったり誹謗中傷の的になったりする事があります。
「忘れられる権利」ってなに?
「忘れられる権利」とは、一定期間が過ぎ去ったインターネット上のプライバシーにかかわる情報や不名誉な過去の記事について、その情報を削除してもらえる権利の事を言います。インターネット普及以前は時間とともに消えていった情報が、現在では拡散性の高いインターネット上に流れる事によって半永久的に残り続ける事になった事から提唱され始めた権利のひとつです。
「忘れられる権利」が問題視されるようになったのは、2011年にフランスの女性がGoogleに対し「自分の過去の個人情報を削除してほしい」という請求をして勝訴した事がきっかけと言って良いでしょう。
EUでは、2014年にスペイン人男性が、16年前に問題が解決したにもかかわらず当時の不名誉な新聞記事がネットに表示されている事についてGoogleに対し検索結果からの削除を要求しました。Googleのような検索エンジンでは「時間の経過とともに意味のなくなったデータについては、一定の条件の下で個人の求めに応じてリンクを削除する義務がある」とされ、男性の要求は認められました。
日本でも「忘れられる権利」をめぐる判例は見られますが、いまだに「知る権利」や「表現の自由」との衝突が起こっているのが現状といえます。EUで認められた「時間の経過とともに意味のなくなったデータ」は、日本においては「その情報が公益性を失ったかどうか」に当てはまると言えます。そういった観点でプライバシー権と表現の自由を天秤にかけた際にもし情報の公益性が時間とともに失われた事が認められた場合は、逮捕歴もインターネット上の検索結果から削除できると認められる可能性はあります。
逮捕なのに実名報道されるのはなんで?その基準は?
刑事事件における「逮捕」の段階では、まだ犯罪者である事が確定した訳ではなく「被疑者」の段階ですが、なぜ逮捕の段階で実名報道される事があるのでしょうか?法律的に明確な基準はありませんが、例えば裁判員制度が適用されるような重大犯罪や、その時代の社会問題になっている犯罪の場合は逮捕時から実名報道になる場合がありますし、指名手配のように捜査時から実名を挙げる場合もあります。
このように、実名で報道された場合、いくら犯罪を犯した人でもプライバシー権や名誉権に関わってくるのではないかと気付く方もいるでしょう。とはいえ、ニュースを書く報道各局には「表現の自由」があり、国民には「知る権利」があります。実名報道をめぐる論争では、この相反する主張のどちらが優先されるべきかが論点となってきます。
表現の自由は憲法第二十一条で保障されています。対するプライバシー権というものは、明文化はされていないものの基本的人権の内容を規定している憲法第十三条で保障されていると考えられています。つまり、両方は明確な優劣はないと言えます。それを踏まえて実名報道をされた人にとって「名誉毀損」になるかどうかという話になると、実名報道をする事が「公共の利害に関すること」「公益が目的であること」「真実であること」の3つの条件に当てはまれば、それは名誉毀損としない事が刑法二百三十条の二で明言されているのです。
簡単に言えば、プライバシー権と表現の自由はどちらも平等に守られるべきものだけれど、実名報道をする事は「公益が目的だと認められる真実」である場合においては違法性が認められず刑罰の対象にならないため「実名を載せるかどうか」は表現の自由をもつ報道各局に委ねられます。だから実名報道をしたい報道各局は実名報道を行える、という事です。同じ罪状でも一般人なら匿名報道になり、芸能人や医者・公務員なら同じ罪でも実名報道される場合が多いのは、そういった「公益性」が関わっている事が理由です。
インターネット上から逮捕歴を削除する事はできる?
インターネットに逮捕歴が残っていると、様々な観点から見ても不利益を被る事が分かります。一度インターネットで広まってしまった逮捕歴を削除する事はできるのでしょうか?
逮捕歴を削除する方法
インターネットに掲載された逮捕歴を削除する場合は、削除したい情報が不法行為に当たっている事が認められる必要があります。そのため、実際に逮捕されて有罪判決を受けた人の逮捕暦をすぐに削除する事は非常に難しいとされています。
対して、本当は冤罪なのにあたかも犯人で確定したかのように書かれているなど、実名報道の内容自体が虚偽の場合はプライバシー権の侵害で記事の削除を申請するだけでなく名誉毀損として慰謝料の請求ができる場合もあるでしょう。そうでなくとも、逮捕歴だけで不起訴となった場合は削除が可能だと認めてもらえるケースが多くあります。
どのくらいの期間で逮捕歴を削除できるの?
日本の法律では、違法性が認められればGoogleの検索結果を削除せきる可能性があります。Googleでは、「法的な削除リクエスト」というページで、違法性のあるページを検索結果から削除するための申請を行う事が出来ます。この方法は個人で申請する事もできる簡単な方法ですが、削除するかどうかはGoogleの判断に委ねられるため、かならず削除できるとは限りません。
逮捕歴の削除というと、先ほどの「公益性」が認められる場合は違法と判断されない場合もあり、削除してもらえません。そういった場合は弁護士に依頼をして、法的な手続きをとってもらうと良いでしょう。
また、Googleに依頼して検索結果から削除されたとしても、掲示板やSNSへの書き込み及びニュースのページは削除されません。元の情報を削除したい場合は、必ずSNSや掲示板などサイトの管理者に対して指定の方法で削除を申請しましょう。
Googleの検索結果を削除する場合も、サイトの管理者に削除を申請する場合も、申請された側がすぐに対応してくれた場合は早ければ数日で削除を確認する事が出来ます。一方、Googleから削除を断られて弁護士に相談した場合やサイトの管理者が対応してくれなかった場合(こちらも弁護士に依頼して裁判を行うケースになります)には、削除完了までに1年以上かかる事もあるので注意しましょう。
削除できないとき
Googleの検索結果が削除できなかったり、サイトの管理者が削除の対応をしてくれなかった場合、削除までに長い時間がかかります。また、そもそも消したい記事に違法性が認められなかった場合は逮捕歴の情報を削除する事は困難です。そういった場合は、誹謗中傷対策を専門に行っている会社に相談してみると良いでしょう。削除が出来なくても、逮捕歴の掲載された情報がGoogleの検索結果の上位に表示される事を防ぐ事が出来ます。
まとめ
検索結果に過去の逮捕歴が出てくると様々な不利益があります。実際には不起訴になった場合でも逮捕歴はついてしまい、逮捕された時点で実名報道されて犯人のように記事が書かれてしまう場合もありますし、インターネットに流れてしまうと半永久的に情報が残ってしまうので消したいと思う方も多いでしょう。逮捕歴の削除については、その記事が「公共性」のある記事かどうかが鍵になります。どうしても削除したい場合は、法律に詳しい弁護士に相談するか、誹謗中傷対策の会社に相談してみる事をおすすめします。